映画のワンシーンと、僕の退屈な青春

煙草のけむり、それとも、ただの長い影

 僕は、煙草を吸わない人間として、ずいぶん長い時間を過ごしてきた。

 若い頃は、映画の中で俳優が煙草に火をつける、あのたった数秒の仕草に、どうしようもなくかっこよさを感じたものだ。試しに吸ってみたことはあるけれど、すぐにわからなくなった。あれを吸って、いったい何が良いのだろう、と 。食に対してさえさほど情熱を持てない僕の身体は、たぶん、ああいう種類の刺激を必要としていなかったのかもしれない 。

 高校生の頃、煙草はまだ、学校のルールをちょっと破る、いわゆる「不良」たちのアイテムというイメージが強かった 。僕は身体を鍛えていたから、煙草とはまったく縁がなかったし、周りの友人にも吸っている人はいなかった 。

 僕が喫煙者という生き物に遭遇し始めたのは、社会人になってからのことだ 。彼らはオフィスビルの中に設けられた、ガラスで仕切られた「特別な小部屋」へ、仕事の途中でひょいと姿を消す。非喫煙者の僕から見れば、それは一種の「サボり」時間だと解釈することもできる 。でも、当の本人たちに言わせれば、それは「集中力を高めるため」であり、「リラックス効果」を得るための、なくてはならない儀式なんだろう 。

 それに、普段話す機会のない部署の上司や、先輩と、煙を介してこっそり情報交換できる「タバコミュニケーション」という名の小さなコミュニティを持つ特権もある。これは非喫煙者には参加できない、少しだけ優越感のある場所だ。

 一昔前、僕らが映画で見たように、煙草を吸う男性は「ちょっとかっこいい」と思われていた時代があった。けれど、君たちの世代はどうだろう?今の社会で、煙草を吸うことは、本当に君をクールに見せてくれるのだろうか。

「雰囲気」で始まる小さな習慣

 君たち高校生にはまだ遠い話かもしれないけれど、君たちの少し上の世代、大学生たちが煙草を吸い始めるきっかけについて調べたデータがある。驚くことに、彼らが吸い始めた理由の多くは、「友人の勧め」(36%)や、ただ「なんとなく/興味本位」「大学生っぽい」「ファッション/おしゃれ」といった、要するに「雰囲気」だったんだ。全体の37%が、雰囲気に流されて最初の1本に手を伸ばしている。

 つまり、煙草は彼らにとって「大人」を象徴する、ちょっとしたファッションアイテムだったのかもしれない。

 もちろん、一度吸い始めると、そこから先は「雰囲気」だけでは済まなくなる。多くの喫煙者が煙草を吸う理由として一番に挙げるのは、「ストレス解消・気分転換のため」だ。

 でも、ここにちょっとユーモラスな「からくり」があるんだ。

 君たちが煙草を吸って「ストレスが解消した!」と感じるあのスッキリした感覚は、実は、体内のニコチンが切れたことによるイライラや不安(これを離脱症状と呼ぶ)が、次の煙草で一時的に緩和されただけにすぎない、という説が有力なんだ。例えるなら、自分で自分の財布からお金を盗んでおいて、「あぁ、お金が増えて安心した」と感じるような、どこか奇妙なループの中にいることになる。煙草がストレスを「解消」しているのではなく、「煙草が作り出したストレス」を補っているだけなんだ。

 ニコチンには一時的に注意力や反応速度を向上させる覚醒作用があるのは事実だ。だから、「集中できる」という実感には科学的な根拠もある。けれど、これは一時的な「借金」みたいなものだと考えてほしい。ニコチンによって刺激された脳は、そのうち「もっと刺激が欲しい」と求め、結局、その快感は長続きせず、脳本来の力は弱っていく可能性さえ指摘されている。

 ちなみに、医学的には煙草を吸うことは「ニコチン依存症」という病気だと捉えられている。その依存性ときたら、ヘロインやコカインといった非常に危険な禁止薬物と同等、もしくはそれ以上の強さがあるんだ。一度深く足を踏み入れると、自分の意志だけではなかなか戻れない、というのは、決して「意思が弱い」という精神論の話ではないんだ。

2兆円の税金と、君の未来への投資

 ここで、少し乾いた「お金の話」をしよう。君が将来、秋田でどんな仕事に就くとしても、お金の流れは知っておいて損はない。

 日本では、紙巻き煙草1箱の値段(例えば580円)のうち、約61.7%が税金なんだ。つまり半分以上が税金だ。国と地方を合わせたたばこ税収は、長年、ほぼ毎年2兆円程度で安定的に推移してきた。紙巻きたばこの販売数量はピーク時(平成8年度の3,483億本)から大きく減少しているのに、この税収が維持されているのは、政府が税率を上げて価格を高くしてきたからだ、という分析がある。財務省は、この2兆円という税収の下限目標を「死守」するために、増税を調整してきたと分析する経済評論家もいるくらいだ。

 僕は煙草を吸わないから、喫煙者がこの安定した税金を納めてくれるのは、社会を支える上でありがたいことだ、と率直に思っている 。地方自治体にとっても、この税金は道路や教育施設の整備など、市民生活の向上に役立てられる貴重な一般財源だ。

 でも、この話には「裏側」がある。煙草が原因で病気になった人の医療費や介護費用などを合わせると、2015年度の時点で総額2兆500億円もの「損失」があった、という研究結果がある。つまり、煙草税で得た収入のほぼ全額が、煙草による被害のコストを消すために使われている計算になるんだ。なんだか、一生懸命バケツに水を汲んでいるのに、バケツの底が抜けているような、少し切ない状況だ。

 さらに、煙草の値段を上げると、特に所得や社会経済的に不利な立場にある層、つまり低所得者層に負担が集中してしまうという問題(逆進性)も指摘されている。税金が、特定の層に集中的な不利益を与えかねないのだ。

君が選ぶ、未来への道

 君たち若者が煙草について考えるべきなのは、それが個人の健康問題であると同時に、社会全体のお金とルールの問題でもあるからだ。

 今、社会はどんどん煙草に対して厳しくなっている。2020年には健康増進法が改正され、喫煙対策はマナーからルールへと変わった。街中の喫煙所も減り、喫煙者の約8割(79.1%)が「不便だ」と感じている。これから喫煙環境はさらに不便になると、喫煙者の95.0%が予測しているようだ。

 しかし、極端な喫煙所の撤去は、マナー違反の路上喫煙(ポイ捨て)を増やしたり、家庭内で吸う人が増えて受動喫煙が増加したりする、という、望まない結果を生み出す可能性もあるんだ。非喫煙者の過半数(54.1%)も、マナーを守る喫煙者は受け入れたいと考えていて、単純な禁止ではなく、分煙機能の向上を求めているんだ。

 もし君が今、ちょっとした好奇心やカッコよさで煙草を吸おうかと考えているなら、立ち止まって考えてみてほしい。煙草のデメリットは多いけれど、やめることのメリットは、信じられないほど早いスピードでやってくる。禁煙からわずか20分以内に心拍数と血圧が低下し、1年で咳や息切れが減る。そして、35歳未満で禁煙すれば、煙草が原因で亡くなるリスクが下がるというデータもあるんだ。

 煙草をやめれば、1日1箱(約600円)として年間約22万円を節約できる。これは君の未来への投資に使える、決して小さくない金額だ。そのお金で何を学ぶか、何を経験するか。

 もし君がストレスや手持ち無沙汰でどうしても吸いたくなったら、水やお茶を飲んだり(多くの人がやっている方法だ)、ガムを噛んだり、散歩やストレッチといった軽い運動をしたり、趣味に没頭したりすることで、その衝動をかわすことができる。

 煙草に頼らず、君自身の力で集中力や心の静けさをコントロールできること。これこそが、君という人間が、秋田の未来を担うための「本物のエネルギー」になるんじゃないかと、僕は思うわけだ。

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