探偵と、手伝いと、僕らの時間の使い方

僕が高校生だった頃、毎週のように楽しみにしていたテレビ番組がある。それは「探偵!ナイトスクープ」という番組だ。関西では知らない人はいないお化け番組だけれど、僕が住んでいた青森では、一週間か二週間遅れて放送されていた。それでも、僕はその番組が大好きだった。
インターネットなんて影も形もなかった時代のことだ。何でも検索すれば答えが出る今とは違って、自分ひとりの力ではどうにもならない謎や悩みが、そこらじゅうに転がっていた。視聴者から寄せられるそんな依頼を、探偵たちが汗をかき、街の人たちの協力を得て解決していく。その姿は滑稽で、でもどこか温かくて、僕はブラウン管の前でよく笑い、時には少し泣いたりもした。
最近、その大好きな番組が少し騒がしいことになっているのを、君は知っているだろうか。ある依頼の内容が、今社会で議論されている「ヤングケアラー」の問題に触れるのではないか、と話題になったのだ。
依頼者は小学6年生の男の子で、多忙な両親に代わって幼い弟や妹の世話を一手に引き受けていた。「一日だけ長男を代わってほしい」という彼の願いは、かつてなら「家族思いの健気な少年」という美談として受け取られたかもしれない 。でも、時代は変わった。画面の向こうで奮闘する彼を見て、「これは美談で済ませていい話なのだろうか」と心を痛める人がたくさんいたのだ。
今日は、この少しだけ複雑で、でも僕らの生活のすぐ隣にある話について、少し書いてみたいと思う。
「偉いね」という言葉の重さ
「ヤングケアラー」という言葉を、君もニュースや授業で耳にしたことがあるかもしれない。簡単に言えば、本来は大人が担うはずの家事や家族の世話、介護などを日常的に行っている18歳未満の子どもたちのことだ。
もちろん、家のお手伝いをすることは素晴らしいことだ。僕も子どもの頃、風呂掃除やお使いを頼まれると、少し誇らしい気持ちになったものだ。家族はチームみたいなもので、誰かが困っていれば助け合うのは自然なことだと、僕らは教わってきた。
でも、その「お手伝い」が、学校に行く時間や、友達と遊ぶ時間、あるいは夜ぐっすり眠る時間まで奪ってしまうとしたらどうだろう。勉強したくても教科書を開く時間がない、部活を辞めざるを得ない。そんな状況になると、それはもう単なるお手伝いの枠を超えてしまっているのかもしれない。
驚くべきことに、国が行った調査によると、中学2年生の約17人に1人が「世話をしている家族がいる」と答えているそうだ。これは、35人のクラスなら2人くらいは該当する計算になる。君のクラスメイトの中にも、もしかしたら放課後のチャイムが鳴ると同時に、急いで家に帰らなければならない誰かがいるかもしれない。
普通ってなんだろう
この問題の難しさは、当事者である子どもたち自身が「自分がヤングケアラーだ」と気づいていないケースが多いことにある。
教育系YouTuberとして活躍している葉一さんという人がいる。彼もまた、かつては家族のケアを担う子どもだったそうだ。彼はインタビューで、「当時はそれが自分の家の『普通』だと思っていたから、誰かに相談しようという発想すらなかった」という趣旨の話をしている。
「親に迷惑をかけたくない」「自分がしっかりしなきゃ」。そんな責任感から、誰にも言えずに抱え込んでしまう。周りの大人から見れば、彼らは「手のかからない良い子」や「しっかり者」に見えるかもしれない。でも、その「しっかり者」の仮面の下で、もし君が息苦しさを感じているとしたら、それは決して当たり前のことではないんだ。
昔は大家族や近所のつながりがあって、大変な時は「お互い様」で助け合えたかもしれない。でも今は、核家族化が進んで、家のドアを閉めれば、中の様子は誰にもわからなくなってしまう。孤独は、静かに、でも確実にそこに降り積もっていく。
荷物を少しだけ下ろしてみる
もし君が今、家族のために頑張っていて、それが少し辛いなと感じていたとしても、どうか自分を責めないでほしい。君が家族を大切に思う気持ちは、何よりも尊いものだ。
葉一さんは、当時の経験について「何ひとつ無駄なことはなかった」と語っている。人の痛みがわかるようになったり、相手の感情を読み取る力がついたり、その経験は必ず君という人間の深みになる。
ただ、だからといって、今ひとりで歯を食いしばって耐えなければならない理由にはならない。マラソンランナーだって、給水所では水を受け取るし、沿道の声援に背中を押されるものだ。
誰かに頼ることは、弱さじゃない。それは、走り続けるための賢い技術だと僕は思う。「誰かに話す」というのは、それだけで解決にはならなくても、心の凝り固まった部分を少し柔らかくしてくれる効果がある。
世界はもっと広い場所にある
学校の先生やスクールカウンセラー、あるいは地域の相談窓口。探してみれば、話を聞いてくれる大人は案外近くにいるものだ。最近ではSNSを使った相談窓口もあるらしい。電話が苦手なら、文字で送ってみるのもいいかもしれない。
大切なのは、君が「子どもとしての時間」を取り戻すことだ。勉強したり、部活に打ち込んだり、あるいは何もしないで空を眺めたりする時間。そういう時間が、君の未来を作っていく。
ナイトスクープの探偵たちが、依頼者の悩みを解決するために街中を駆け回るように、君の問題を一緒に考えてくれる人は必ずいる。世界は、家と学校の往復だけじゃない。もっと広くて、いろんな選択肢が転がっている場所なんだ。
だから、もし君が重たい荷物を持っているなら、ほんの少し勇気を出して、「ちょっと持ってくれない?」と言ってみてほしい。それだけで、明日の景色が少し変わって見えるかもしれないから。

