秋田の古い家が教えてくれること

 今日は少し、家の話をしようと思うんだ。家といっても、君が今住んでいる家のことじゃない。誰も住んでいない家のことだ。

 僕たちは普段、新しいものが好きだよね。新しいスニーカー、新しいスマートフォン、あるいは焼きたてのパン。新しいものには、独特の匂いがある。希望の匂いと言ってもいいかもしれない。

 でも、世の中にあるすべてのものが新品である必要はないし、実際そうではない。今日は、秋田の街角でひっそりと息を潜めている「空き家」について、少しばかり考えを巡らせてみたいんだ。これはただの不動産の話じゃなくて、君がこれからどう生きていくかという、ちょっと哲学的な話にもつながるかもしれない。

古い箱の中身と、数字の不思議

 まず、少しだけ数字の話をさせてもらうよ。数字というのは、時として言葉よりも雄弁に物語を語ることがあるからね。

 最近、秋田市がある調査結果を発表したんだ。それによると、秋田市内には確認されただけで4916戸もの空き家があるらしい。4916戸。想像できるかい? これだけの数の家族が、かつてそこで朝ごはんを食べ、笑い合い、時には喧嘩をして、そして去っていったということだ。

 秋田県全体で見ると、その数はもっと増える。ある統計では、県内の住宅の約15.7%が空き家だと言われている。クラスに30人の生徒がいたら、そのうちの4、5人の席が空いているようなものだ。ちょっと寂しい光景だよね。

その4916戸の空き家のうち、332戸は「倒壊の恐れがある」危険な状態だそうだ。屋根が落ちかけたり、壁が傾いたりしている。家というのは不思議なもので、人が住まなくなると急速に年老いていく。まるで、住人がいないと呼吸の仕方を忘れてしまうみたいにね。

 でも、裏を返せば、残りの4500戸以上はまだ「使えるかもしれない」ということだ。ここに、僕たちが考えるべき面白い種が埋まっているような気がするんだ。

見えない壁と、思い出の重さ

 「家が余っているなら、欲しいあげればいいじゃないか」

 君はそう思うかもしれないね。確かに、パズルとしてはそれが正解だ。でも、人間の感情というのはパズルほどうまく噛み合わないことが多い。

 実は、空き家には「隠れ空き家」と呼ばれるものがたくさんあるんだ。誰かが住みたいと思っても、市場に出てこない家のことだね。なぜだと思う?

 理由はいくつかあるけれど、大きな原因の一つは「思い出」の重さだ。仏壇がそのまま残っていたり、おじいちゃんやおばあちゃんが大切にしていた家財道具が片付いていなかったりする。あるいは、親戚同士で「あの家をどうするか」という話し合いがまとまらないこともある。

 家はただの木とコンクリートの塊じゃない。そこには記憶が染み込んでいる。だから、簡単には手放せないんだ。これは誰が悪いわけでもない。人の心というのは、そういうふうにできているんだから。

 それに、空き家を放っておくと困ったことも起きる。雪が積もって潰れてしまったり、誰かが勝手にゴミを捨てていったりする。所有者にとっては、固定資産税という維持費もかかるし、管理するのは本当に大変なことなんだ。

35年ローンという名の巨大なリュックサック

 さて、ここで少し視点を変えてみよう。君自身の未来の話だ。

 大人になって自分の家を持つとしたら、君はどうする? 多くの人は、ピカピカの新築を建てることを夢見る。それは素晴らしいことだ。でも、それには莫大なお金がかかる。何千万円というお金を借りて、35年かけて返していく。 それはまるで、とてつもなく重いリュックサックを背負ってマラソンを走るようなものかもしれない。

最近、そんな重荷を背負うよりも、もっと軽やかに生きたいと願う人たちが増えているんだ。

 彼らは空き家を安く買って、自分好みに直して住む。リノベーション、というやつだね。壁を好きな色に塗ったり、床を張り替えたり。それは世界に一つだけの、自分たちの城を作る作業だ。

 実は、秋田市もそんなチャレンジャーたちを応援しているんだよ。例えば、県外から移住して空き家を買ってリフォームする場合、条件が合えば最大で100万円もの補助金が出ることもある。家を借りる場合でも、リフォーム費用を助けてくれる制度がある。これは、「古いものを大切にして、新しい価値を作る人」へのプレゼントと言えるかもしれないね。新品を買うだけが正解じゃない。古いジーンズを履きこなすように、古い家を住みこなす。そういう生き方も、なんだか悪くないと思わないかい?

学生たちが描く、家の新しい物語

 「でも、古い家なんて本当に住めるの?」と君は不安に思うかもしれない。 確かに、隙間風は吹くかもしれないし、冬は寒いかもしれない。でも、それを逆手に取って楽しんでいる人たちもいる。

 例えば、由利本荘市では、大学生たちが主体となって空き家をリフォームするプロジェクトがあったそうだ。若い感性で、古い家が魅力的な空間に生まれ変わる。それは単なる修理ではなく、創造だ。

 河辺雄和地区では、芸術家たちが空き家をアトリエとして使っている例もある。都会にはない豊かな自然と、広い空間。そこから新しいアートが生まれているんだ。

 また、横手市などでは、空き家をゲストハウスにして、世界中から旅人を迎えている場所もある。かつては静まり返っていた家が、今では笑い声と音楽で満たされている。家は「箱」だけれど、そこに何を入れるかは君次第なんだ。

僕たちが選べる、いくつかの道

 もちろん、すべての空き家が夢の城になるわけじゃない。中には、残念ながら取り壊すしかない家もある。秋田市でも、あまりに危険な空き家は、市が代わりに解体することもあるんだ。これは安全を守るためには必要なことだね。

 でも、もし君が将来、「どこに住もうか」「どんな暮らしをしようか」と迷った時、選択肢の一つとして「古い家」のことを思い出してみてほしいんだ。新築のマンションでスマートに暮らすのもいい。 でも、誰かが大切にしていた古い柱の傷跡を愛でながら、自分だけの手作りライフを送るのも、なかなか乙なものだよ。大切なのは、世の中が決めた「こうあるべき」というレールに乗ることじゃなくて、君自身が「心地いい」と感じる場所を見つけることだ。

 空き家問題というのは、一見すると暗くて難しいニュースのように見えるかもしれない。でも、見方を変えれば、それは「僕たちの暮らし方を、もう一度発明し直すチャンス」でもあるんだ。

 未来は、ピカピカの新品の中だけにあるんじゃない。意外と、埃をかぶった古い箱の中に、素敵な宝物が隠されていることもある。君なら、その箱を開けてみるかい? それとも、新しい箱を探しに行くかい? どちらを選んでも、それは君だけの素晴らしい物語になるはずだ。

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