重たいリュックサックと、見えない荷物

 毎朝、パンパンに詰まった通学カバンを背負って学校へ向かう君の背中は、僕が学生だった頃よりもずっと逞しく見える。教科書にノート、部活の道具。物理的な重さもさることながら、今の君たちが背負っている「見えない荷物」の重さは、僕らの想像を遥かに超えているのかもしれない。

 今日は、そんな見えない荷物を少しだけ下ろして、僕の話を聞いてくれないだろうか。少しばかり真面目なトーンになるかもしれないけれど、温かいココアでも飲みながら、リラックスして読んでほしい。

「不名誉なナンバーワン」と、そこからの脱却

 君は、僕らが住んでいる秋田県が、ある統計で長いこと「全国で一番」だったことを知っているだろうか。美味しいお米や美しい自然の話なら鼻が高いけれど、これは「自殺率」の話だ。ずっと昔から、秋田は自殺する人が多い地域だと言われてきた。

 正直、あまり気分のいい話じゃないよね。でも、大人はただ手をこまねいていたわけじゃないんだ。自治体や大学、民間団体、そして新聞社までが手を組んで、「なんとかしよう」と必死に動いてきた。これを専門的な言葉で「秋田モデル」なんて呼んだりして、全国からも注目されている。

 その甲斐あってか、一番ひどかった時期に比べれば、自殺する人の数は半分以下に減ったんだ。これは本当にすごいことだと思う。雪かきと同じで、一人じゃどうにもならないことでも、みんなでスコップを持てば道は開けるってことかもしれない。それでもまだ、この地域から悲しいニュースがなくなるわけじゃない。それが僕は、とてもやるせないんだ。

なぜ、君たちの世代のグラフだけが右上がりなのか

 全体を見れば、日本全国で自殺する人の数は減ってきている。特に、おじさんやおばさん世代、いわゆる中年の人たちの自殺率は下がっているらしい。不景気だなんだと言われながらも、大人はしぶとく生きる術を身につけつつあるのかもしれない。

 でも、君たち学生の世代だけは、ちょっと事情が違うようだ。 2024年のデータを見ると、小中高生の自殺者数は統計を取り始めてから過去最多の527人になってしまったそうだ。少子化で子どもの数は減っているはずなのに、自ら命を絶つ子の数は減らないどころか増えている。G7という先進国グループの中でも、日本の若者の死因のトップが「自殺」だなんて、ちょっとショックな事実もある。

 原因は一つじゃない。学校での成績、進路の悩み、友達との関係。大人はすぐに「スマホのせいだ」とか「最近の子は打たれ弱い」なんて勝手な分析をしたがるけれど、僕はそう単純な話じゃないと思っている。君たちが生きている世界は、僕らが子どもの頃よりもずっと複雑で、息苦しいのかもしれないね。

池に投げ込まれた小石の波紋

 僕がまだ君くらいの年齢だった頃、こういう話はテレビの向こう側の出来事で、自分には全く関係ないと思っていた。でも、大人になってから、結構身近な人が亡くなるという経験をしたんだ。

 そこまで親しい間柄じゃなかったけれど、その知らせを聞いた時のショックは、冷たい水を背中から浴びせられたようだった。「もし、あの時声をかけていたら」「もし、僕が少しでも支えになれていたら」。そんな「もしも」が頭の中をぐるぐると回って、しばらく離れなかった。

 WHO(世界保健機関)という偉い人たちの集まりによると、一人が自殺すると、周囲の少なくとも6人が強い影響を受けると言われている。家族や友人はもちろん、クラスメイトや先生、近所の人まで。まるで静かな池に小石を投げ込んだ時の波紋のように、悲しみや後悔は広がっていくんだ。

もちろん、誰かを責めるつもりでこんな話をしているわけじゃない。ただ、君がいなくなることは、君が思っている以上に、この世界に大きな穴を空けることになるんだよ、と伝えたいだけなんだ。

「パパゲーノ」という魔法の言葉

 「じゃあ、どうすればいいの?」と君は聞くかもしれない。残念ながら、この問題に「これをすれば全て解決!」なんていう魔法の杖はないんだ。

 でも、「パパゲーノ効果」という少し面白い名前の現象があるのを知っているかな? モーツァルトのオペラ『魔笛』に出てくるパパゲーノという登場人物が由来なんだけど、彼は愛する人を失って絶望し、死のうとする。でも、直前で「死ぬ以外にも方法はあるよ」と気付かされて、生きることを選ぶんだ。

 メディアや周りの大人が、センセーショナルに「誰かが亡くなった」ことばかりを騒ぎ立てるのではなく、苦しい状況にあった人が「どうやってそれを乗り越えたか」「どこに助けを求めたか」という話をすることで、自殺を思いとどまる人が増えるという効果だ。

 つまり、今抱えている悩みや苦しみは、解決策がないように見えても、実は「まだ見つかっていないだけ」かもしれないということだ。トンネルの中は真っ暗だけど、出口がないトンネルはない。ありふれた言葉かもしれないけれど、これは統計的にも証明されている事実なんだ。

雪解けを待つ間にできること

 最後に、僕から君へ、ほんの少しの提案がある。

 もし今、君の心が大雪で閉ざされているような状態なら、無理に雪かきをしなくていい。ただ、誰かに「雪がすごいんだ」と愚痴をこぼしてみてほしい。家族でも友達でもいいし、もし周りの人には言いにくいなら、電話やSNSで相談できる場所がたくさんある。

 厚生労働省や自治体は、君たちがSOSを出せる場所を一生懸命作っている。顔も見えない、名前も知らない相手の方が、案外素直に話せることだってあるからね。

 僕ら大人は、君たちが「生きていてよかった」と思えるような社会を作る責任がある。でも、それにはまだ時間がかかりそうだ。だから、君にはもう少しだけ、その場所で待っていてほしい。

 春は必ず来る。 雪が解けた後のアスファルトの匂いや、ふきのとうの苦味を、また一緒に味わえたら嬉しいなと思う。

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