夏の風景から、未来のビジネスを考える

 

 君はあのカラフルなパラソルを見たことが何度もあるだろう。

 そう、秋田の道端に、まるで砂漠に咲いたオアシスのように、突如として現れる黄色とピンクのパラソルだ。その下には、頬かむり姿のおばあさん、地元でいうところの「ババ」が座っていて、金属製のヘラでアイスをコーンに美しく盛り付けてくれる。

 あれが秋田の夏の風物詩、ババヘラアイスだ。

 僕自身、県外から秋田に住むようになった社会人だが、実は甘いものをあまり好まないため、ババヘラアイスを実際に食べたことはない。それでも、ババヘラが秋田のアイコンとして、多くの人に愛され、この土地のブランドの一つとして貢献しているのは確かな事実だと知っている。この小さな氷菓には、秋田の未来を考えるための、いくつかのヒントが詰まっている。今日は、そんなババヘラの世界を一緒に覗いてみようじゃないか。

パラソルの下の「ババヘラ」が教えてくれること

 ババヘラアイスの販売員は、親しみを込めて「ババ」と呼ばれている中年以上の女性たちだ。

 彼女たちの服装、つまり頬かむりに長袖シャツというスタイルは、農作業の服装そのものに由来しているという。農閑期の副業として始められたこの仕事は、長時間屋外で働くのに都合がよく、今や一種のユニフォームになった。2004年時点での販売員の平均年齢は70歳を超えていたというから、まさにベテラン揃いだ。

 そして君も知っているかもしれないが、イベント会場では高校生など若い世代がアルバイトで参加することもあるらしい。

 その際、若い女性が売ると「ギャルヘラ」や「ネネヘラ」、男性が売ると「ジジヘラ」や「オドヘラ」なんて呼ばれるそうだ。君の周りにも、夏休みに「ネネヘラ」デビューした友達がいるかもしれないね。

 販売員の方々は、早朝から送迎車に乗って、機材とともに販売場所へと向かい、日が暮れるまで働く。大変な重労働だが、彼らは売り上げに応じた歩合制で賃金を得ることもあり、お盆のような繁忙期には一日二万円ほど稼げることもあるという。これは、高齢者であっても、実力と労働意欲があればしっかりと報われるという、非常にシンプルで力強いビジネスモデルだ。

 地元経済の末端を支える、小さな名もなきヒーローたちの存在を、僕たちは意識してみるべきだろう。

実は6社もある競争社会!メーカーの知恵比べ

 ババヘラアイスと聞くと、誰もが一つの会社を思い浮かべるかもしれないが、実はこの競争の激しい市場には、2004年時点でなんと6社もの製造販売業者が存在している。

 主要な業者だけでも、創業60年以上の老舗で元祖とも言われる児玉冷菓と、「ババヘラ」の商標を保有する進藤冷菓の二大巨頭がいる。その他にも、杉重冷菓、千釜冷菓、若美冷菓、三浦冷菓といった名前が挙がっている。男鹿市の道の駅「オガーレ」では、4社のババヘラアイスが並び、食べ比べができるという光景もあったらしいから、想像以上に競争は熱い。

 各社は、ただ路上でパラソルを立てているだけではない。彼らは常に「差別化」という頭の痛い課題に取り組んでいる。

  • 味と食感の追求: 業者によって原材料の配合が異なり、甘さや食感が微妙に違う。例えば進藤冷菓は、機械でできたアイスを金属バットで突いて空気を抜き、シャーベットに近いシャキシャキ感を出す工夫を考案し、続けている。
  • 新フレーバーの開発: 伝統のピンク(いちご味)と黄色(バナナ味/レモン味)だけでなく、進藤冷菓はブラウブリッツ秋田のチームカラーをイメージした「ババヘラ・ブルーアイス」(ソーダ&ミルク)や、秋田県産メロン味、エヴァンゲリオンとコラボした「エヴァヘラ・アイス」など、新しい挑戦を続けている。
  • コラボレーションと新形態: 児玉冷菓は、そのババヘラアイスの味をシュークリームにした「アイシュー」という商品を秋田フーディ合同会社と共同で開発した。凍ったままシューアイスとして、解凍してもっちりシュークリームとして楽しめるというから、すごいアイデアだ。
  • 販路拡大: 地元での路上販売の売り上げが昔の3分の1に減っているという現実もある中で、業者たちは公式通販を開設し、県外のレストランなどへの展開や、道の駅でのソフトクリーム版の販売(例:セリオンでの「ババヘラ ソフト」)など、新たな市場を開拓しようとしている。

君が普段何気なく見かけるババヘラアイスの裏側には、これだけの試行錯誤と、生き残りをかけた小さな戦いが隠されているんだ。

道路脇のパラソルと、未来の安全へのこだわり

 僕が秋田に住むようになって、ババヘラアイスが秋田のブランドとして貢献しているのは理解しているものの、実は一つだけ、いつも心がざわつく問題がある。それは、その販売場所についてだ。

 ババヘラアイスは、幹線道路のそばや、多くの人が行き交う場所にパラソルを立てて販売されるのが一般的だ。もちろん、販売員の方々は私有地に入らないように、通路で営業しているつもりだと思う。しかし、公道上で無許可販売を行っている業者がいることは、昔から問題として指摘されている。

 僕個人としては、道路や多くの人たちが行き交う場所での販売は、正直、反対だ。交通事故のリスクや、交通の妨げになる可能性を考えると、安心して買って、安心して食べられる環境が必要だ。

 これは、単なる「ルール」の問題ではなく、秋田の未来のブランドを守るための「安全」と「信用」の問題だと僕は思っている。 

 将来、僕たちが秋田のソウルフードを胸を張って全国に広げるとき、販売員も購入者も、誰もが「確実に交通安全を担保した場所を正式に確保した上」で営業できる、そんな未来を目指すべきではないだろうか。公的な場所(道の駅など)での販売が増えているのは、その方向性への一歩だと捉えられるかもしれない。

君と僕の「次の一手」について考える

 君は今、秋田の未来についてどう考えているだろうか。
 ババヘラアイスは、伝統を守りつつも、新しい風を取り込もうと必死だ。

 商標登録で揉めたり、他社との差別化のために必死に新しい味(例えば、あじさい寺限定の「あじさいブルー」や、秋田の酒粕を使ったかき氷)を開発したりしている。

 これは何も特別なことじゃない。秋田に生きる全ての企業や、そして僕たち一人ひとりも、変わりゆく時代に対応するために、毎日小さな「知恵比べ」をしているんだ。君がもし、地元の課題やビジネスに興味があるなら、ババヘラから学べることは多い。

  • 文化をどうビジネスにするか: 昔ながらの「バラ盛り」という職人技と、それを家で楽しめる「手作りセット」として通販で売るアイデア。伝統と革新のバランス。
  • 地元の強みをどう活かすか: 秋田県産のメロンや横手の大沢葡萄ジュース、そして秋田の酒粕など、地元の食材をフレーバーに取り込む取り組み。
  • 安全と信用をどう担保するか: 路上販売の課題を解決し、観光地やイベント会場で「安心して買える」環境を整備すること。

 僕自身は、甘いものが苦手でババヘラアイスを食べたことがないけれど、君が進藤冷菓のシャキシャキした食感を試してみるのか、児玉冷菓の老舗の味を選ぶのか、あるいは「ギャルヘラ」や「ネネヘラ」に遭遇して、その盛り付けの美しさに感動するのか、それを想像するのは楽しい。

 未来の秋田は、君たちの柔軟な発想にかかっている。伝統的なものをどう守り、どう壊し、どう新しく作り直すか。ババヘラアイスのパラソルが、君にとって、そんな思考を始めるきっかけになれば、僕としては嬉しい限りだ。

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