働くことと未来の地図

 

 僕がまだ高校生だった頃、学校が終わると近所のファミリーレストランでアルバイトをする生活を送っていた。部活動をしていなかったから、夕方からの時間が丸ごと仕事に充てられたんだ。
 当時の時給は、たしか530円ぐらいだったと記憶しているよ。それが今や、全国加重平均の最低賃金は1,000円を超えている(2024年度は1,055円)らしい。
 ちなみに、新聞配達のアルバイトの平均時給を見ても、アルバイト・パートで約1,194円が相場だそうだ。ただ、秋田が含まれる北海道・東北地方の時給は全国でも低めの傾向にあって、例えば青森県では997円というデータもある。君がもし今、時給1000円で働いているとしたら、僕の高校生時代に比べて約2倍の価値がある時間を売っているわけだ。
 なんだか、お金の話ばかりになってしまったけれど、君たちがこれから秋田で生きていく上で、「働く」ということを深く考えてもらうための、ちょっとした道しるべになればいいと思っているんだ。

働いてわかる「大人の世界」の作法

 高校生のアルバイト経験者への調査を見てみると、一番人気があるのは「飲食・フード(接客・調理)」で、34.7%を占めているんだ。次いでイベント、販売と続く。僕もファミレスで働いていたから、この人気はよくわかる。初めてのバイト先として「ファーストフード店」や「コンビニ・スーパー」を選ぶ人が多いのも納得だ。
 僕がアルバイトを始めた頃、同じ職場で30歳ぐらいの大人たちと一緒に働くことになった。年上とはいえ、僕と同じ「アルバイト」という立場で仕事をするのが、すごく新鮮だったのを覚えているよ。
 社会に出て、最初に学ぶのは、お金を稼ぐことの苦労はもちろんだけれど、それ以上に「人との関わり方」かもしれない。目上の人には敬語を使ったり、お客様への接遇には気を遣ったり。こういう経験を通じて、正しい言葉遣いが身につくと答えた高校生が41.4%で最も多かったという調査結果もある。将来の仕事や職業に役立つ経験をした(32.3%)、異なる世代の人と関わった(32.0%)という意見も多かったよ。

 アルバイトを通じて社会のルールやコミュニケーションを学ぶことは、君たちがこれから地域社会で、そして秋田の将来を担う上で、きっと財産になるはずだ。ファミレスの採用担当者も、「高校生スタッフがいることで、幅広い年齢層や属性の方と一緒に働く経験と学びがある」と言っていたよ。

頑張りすぎると見えてくる「壁」の話

 君たちがアルバイトを選ぶ理由の一番は「時給の高さ」(63.0%)、そして「趣味のため」という人も増えている。お金を稼ぎたいという気持ちは素晴らしいけれど、頑張りすぎると法律や税金の「壁」にぶつかることがある。ちょっとややこしい話だけれど、知っておくと「損をしない」で済むから、肩の力を抜いて聞いてほしい。

 まず、高校生(満18歳未満の年少者)は、法律で「深夜業」が原則禁止されている。つまり、午後10時から翌朝5時までの間は働くことができないんだ。ただし、新聞配達のような特殊な業務の場合、満16歳以上の男性であれば例外もあるし、業種によっては午後11時まで延長できることもある。秋田の夜は早いけれど、夜中に働いて健康を崩さないように、国が君たちを守ってくれているわけだ。
 労働時間にも制限がある。原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて働くことはできないんだ。週4日のアルバイトとちょっとした副業を掛け持ちしている君もいるかもしれないけれど、すべての職場で働いた合計時間がこの制限を超えないように調整が必要だ。
 そして、税金と親の扶養に関わる「壁」だ。2025年からは税制が少し変わり、「103万円の壁」が廃止され、「123万円の壁」に一本化されるらしい。これは、君の年収が123万円を超えると、親が受けられる税制上の優遇(扶養控除)に影響が出るということだ。さらに、親の税負担を軽くできる上限が150万円に設定された。ただし、年収が160万円を超えると、君自身に所得税が課税される基準になるから要注意だ。年収が多いからといって隠していると、後で親御さんに迷惑がかかるかもしれないから、「今年のバイト・副業収入の見込み」や「年収の壁を超えそうか」といったことは、早めに親と相談しておくと安心だね。

 もし、君がアルバイトを2ヶ所以上掛け持ちしていたり、年収が160万円を超えたりしたら、自分で確定申告をしたほうがいい場合や、絶対に必要な場合もあるから、面倒がらずに調べてみてほしい。税金って、大人の話みたいに聞こえるけれど、社会を支えるために必要なものなんだ。

「楽な仕事」の裏にある甘い罠

 君たちがバイトを選ぶ決め手は「時給の高さ」がトップだという話をしたけれど、「簡単で安全でたくさん稼げる仕事なんてない!」という現実も、頭の片隅に置いておいてほしい。
 最近はSNSで「高額バイト」といったうまい話を見つけることがあるかもしれない。でも、そうした誘いは、オレオレ詐欺のような特殊詐欺の手伝い(受け子)をさせられる危険性が高いんだ。検挙された少年のうち、5人に1人が「受け子」として利用されていたというデータもある。詐欺グループにとって、君たちは捕まっても困らない「使い捨てのコマ」として都合よく利用されているだけなんだ。もし連絡先を教えて、自宅住所や両親の氏名などの記入欄があったら、それは家族を人質に取られるようなもので、抜け出せなくなる危険な一歩だ。
 一方、新聞配達のように、朝早くから起きて働く仕事はどうだろう。ある経験談によると、体力的にきついのは事実だ。雨や大雪の日は特に大変だという。でも、個人的にはストレスがたまらない「楽な仕事」だったという人もいる。なぜなら、人とのコミュニケーションがほとんどなく、黙々と作業ができるからだ。新聞販売業の労働災害の多くは交通事故で、バイクや自転車での事故が多いというデータもあるから、安全運転には十分気をつける必要があるけれどね。
 「楽」の定義は人それぞれだ。高収入を謳う危険な仕事ではなく、地道に努力し、精神的に穏やかに続けられる仕事こそが、君の未来を支えてくれる「本当の楽さ」を持っているかもしれない。

秋田で働く君へ、僕からのエール

 高校生の頃の僕は、お金を稼ぐことばかりに気を取られていたけれど、アルバイトで学んだのは、お金以上のものだったと今は思っている。
 君たちが働く理由は、「趣味のため」や「貯金をするため」かもしれないね。でも、働く中で身につける礼儀や、計画的に働く力、そして何より、社会の仕組みを肌で感じる経験は、君がこれから秋田で、あるいは秋田から出ていくとしても、必ず役に立つ。
 学業との両立に不安を感じる人も多いだろう。だからこそ、「無理のないシフト」「学校行事への配慮」「テスト期間の調整」といったポイントを念頭に、働く時間や場所を自分でコントロールすることが大切だ。アルバイト先とシフトの変更でトラブルになる高校生もいるが、自分の希望ははっきり伝えることも重要だよ。

 秋田には、独自の文化や豊かな自然、そして温かいコミュニティがある。君がそこで働く経験は、都会で働く僕たちとはまた違う、大切な価値観を君に教えてくれるだろう。働くことは、自分の将来を決める「予行演習」だ。君たちがアルバイトで得た経験や知識を活かして、秋田の未来をどんな地図で描いていくのか、とても楽しみにしているよ。だから、まずは焦らず、自分のペースで、一歩を踏み出してみよう。

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