コンビニの棚の隙間に、未来のヒントが隠れている

僕がまだ、君くらいの年齢だった頃の話をしよう。 当時の僕が住んでいた街には、コンビニエンスストアなんていう気の利いたものは存在しなかった。 夕飯の食材も、ちょっとした生活用品も、母親たちはスーパーマーケットや百貨店でまとめて買っていた時代だ。ましてや、24時間眠らない店なんて、SF小説の中にしか出てこないような話だったんだよ。
ところが、僕が高校生になり、少し生意気な口を利くようになった頃には、街の景色が一変した。 まるで雨上がりの竹の子みたいに、あちこちにコンビニが生えてきたんだ。 確かに便利にはなった。深夜にお腹が空いても、温かいお弁当が手に入るんだからね。
でも、当時の僕はひどく驚いたのを覚えている。スーパーなら夕方には安売りシールが貼られるようなパンやおにぎりが、コンビニでは涼しい顔をして定価で売られていたからだ。 「定価で物を買う」という行為が、なんだかとても贅沢で、少しだけ損をしているような、不思議な気分にさせられたものだよ。
それから時は流れて、僕は大人になり、旅をするのが好きになった。 日本中をあちこち歩き回ってみて、気がついたことがある。 コンビニというのは、どこへ行っても同じ顔をしているようで、実はその土地ごとの「匂い」みたいなものを持っているってことだ。
今日は、そんなコンビニの話を枕にして、これから広い世界へ出ていく君の将来について、少しばかりおしゃべりをしたいと思う。
なぜ、そこら中に同じ看板があるんだろう
君も街を歩いていて、不思議に思ったことはないかな。 「あれ、さっきあそこの角にセブン-イレブンがあったのに、またここにもあるぞ」って。 まるでデジャヴみたいだよね。 実はこれ、僕たちの「思い込み」が少し関係しているらしい。 行動経済学という分野の話になるけれど、「利用可能性ヒューリスティック」という少し長い名前の法則があるそうだ。 人間というのは、よく見かけるものや、記憶に残りやすいものを「数が多い」と錯覚してしまう癖があるらしいんだ。実際には歯医者さんの数よりもコンビニの数の方が少ないんだけれど、僕たちは毎日コンビニの看板を目にするから、「コンビニの方が多い」と感じてしまう。
もちろん、実際に店舗数が多いのも事実だ。 ある特定の地域に、同じチェーン店を集中して出店させることを「ドミナント戦略」と呼ぶ。 これは、配送のトラックが効率よく回れるようにしたり、その地域で「コンビニといえばあの色だよね」と人々に刷り込むための作戦なんだ。 ライバル店が入り込む隙間をなくして、その地域を「支配(ドミナント)」してしまう。なんだか戦国時代の国取り合戦みたいだろう?
でも、この戦略は諸刃の剣でもある。 同じ看板の店が増えすぎれば、お客さんの取り合いになってしまうし、働く人を見つけるのも大変になる。 それでも、企業は緻密な計算をして、「ここなら商売になる」という境界線を見極めて出店しているんだ。 君が何気なく通り過ぎているそのお店の立地には、大人たちの必死な計算と戦略が詰まっているというわけだ。
北の大地と、パンの香りがする場所
さて、ここからが旅の話だ。 北海道に行ったことはあるだろうか。 あの広大な北の大地では、僕たちがよく知る「セブン」「ローソン」「ファミマ」という三大勢力とは少し違う風が吹いている。
「セイコーマート」という、オレンジ色の看板のコンビニだ。 北海道では、このセイコーマートが圧倒的な強さを誇っている。店舗数は北海道だけで1,000店を超えていて、あの大手コンビニたちを抑えてトップのシェアを持っているんだ。 彼らの強みは、徹底した「地域密着」にある。 お店の中で調理した温かいお弁当を出したり、地元の食材を使った商品を並べたりしている。 2018年に大きな地震が起きて北海道中が停電したときも、セイコーマートの多くは営業を続け、温かいおにぎりを提供したそうだ。 その姿は、単なる便利なお店を超えて、地域のライフライン、いや、希望の灯りのように見えたかもしれないね。
それから、少し南に下って秋田県の話もしよう。 秋田県には「デイリーヤマザキ」というコンビニがあるんだけれど、ここにはちょっとした秘密がある。 秋田県民にとって、このコンビニはただの全国チェーンではないんだ。
実は、秋田には「たけや製パン」という、地元で愛され続けている製パン会社がある。 この会社が、山崎製パンと業務提携をして、県内のデイリーヤマザキの運営に関わっているんだ。 だから、秋田のデイリーヤマザキには、他県では見かけない「バナナボート」のような地元ならではのパンやスイーツが当たり前のように並んでいる。 大手資本の看板を掲げながらも、中身はしっかりと地元の魂を持っている。 なんだか、遠くの街で同郷の友達に会ったような、温かい気持ちにさせてくれる。
変化していく景色の中で
コンビニの歴史を紐解くと、そこには栄枯盛衰の物語がある。 かつて岩手県を中心に「キャメルマート」というコンビニがあったことを知っている人は、今はもう少ないかもしれない。 ラクダのマークが可愛らしい、地域に根ざしたお店だったけれど、時代の波に揉まれて、その多くは姿を消してしまった。 僕たちが「当たり前」だと思っている景色は、永遠に続くわけじゃない。 便利さや効率だけを追い求めていけば、強いものが勝ち残り、景色は均一化していくかもしれない。 でも、北海道のセイコーマートや秋田のデイリーヤマザキのように、「そこにある意味」をしっかりと持っている存在は、形を変えながらも愛され続けている。
さて、ここからが君へのメッセージだ。 これから君が進んでいく未来も、このコンビニ業界の地図のように、めまぐるしく変化していくだろう。 AIが発達して、無人の店舗が増えるかもしれないし、ドローンが空を飛んで商品を届けるようになるかもしれない。 そんな変化の激しい時代に、君はどうやって自分の居場所を見つけるだろうか。
大手チェーンのように、圧倒的な実力をつけて広い世界で勝負するのもいいだろう。 でも、それだけが正解じゃない。 セイコーマートのように、特定の場所で誰かにとっての「なくてはならない存在」になる生き方だってある。 あるいは、秋田のデイリーヤマザキのように、大きな流れに身を置きながらも、自分だけの「オリジナリティ」を大切にする生き方だって素敵だ。
社会は「飽和している」なんて言われることもある。 コンビニだって、もうこれ以上作れないんじゃないかと言われながら、それでもセブン-イレブンはさらに店舗を増やそうと計画しているそうだ。 それは、世の中の変化に合わせて、新しい役割を見つけようとしているからに他ならない。 人口が減ったり、高齢化が進んだりする中で、コンビニは単なるお店から、地域の見守り役や、防災の拠点へと進化しようとしている。
君の未来も同じだ。 「もうやることは残っていない」なんて思わないでほしい。 世界を見渡せば、君の力を必要としている場所は必ずあるし、君にしかできない役割がきっと見つかるはずだ。 定価で売られているおにぎりを見て「高いな」と感じる感性を持ち続けながら、その裏側にある仕組みや、そこで働く人々の想いに想像を巡らせてみてほしい。
もし、将来のことに迷ったら、近所のコンビニに入って、棚を眺めてみるといい。 そこには、激しい競争の中で生き残るための知恵や、地域の人たちを喜ばせようとする工夫が詰まっている。 そして、レジの向こうで働いている誰かや、商品を運んでくるトラックの運転手さんのことを想像してみてほしい。 世界は、そうやって誰かの仕事で回っている。 君もいつか、その輪の中に加わって、誰かの日常を支える一人になるんだ。

