雪、屋根、そして僕たちの未来

窓の外を見ると、雪が静かに降り積もっている。 君の住む街ではどうだろうか。もし君が雪の降らない地域に住んでいるなら、雪というのはロマンチックで、どこか非日常的な美しいものとして映るかもしれないね。映画のワンシーンみたいに。
でも、北国に住む僕たちにとって、雪はただ美しいだけの存在じゃない。それは時には、圧倒的な質量を持って僕たちの生活にのしかかってくる「白い重り」でもあるんだ。
最近、秋田県で除雪作業中の事故が続いているというニュースを耳にした。 特に高齢の方が、屋根の雪下ろし中に亡くなるという痛ましい出来事が起きている。 雪国では「除雪は命がけ」なんて言葉をよく聞くけれど、決して大袈裟な比喩じゃない。
今日は少し、温かいココアでも飲みながら、この冷たくて重い雪のこと、そしてこれからの僕たちの未来について、一緒に考えてみないかな。
屋根の上の白い巨象
そもそも、どうして危険を冒してまで屋根の雪を下ろさなきゃいけないんだろう。 「放っておけばいいじゃないか」と君は思うかもしれない。僕も子供の頃はそう思っていた。雪なんて、いつか春が来れば勝手に溶けるんだからって。
でもね、雪というのは想像以上に重いんだ。 降り積もったばかりの雪は軽くても、時間が経って締まったり、雨を含んだりすると、1立方メートルあたり300キログラム以上になることもあると言われている。もし屋根に2メートルの雪が積もったら、それはもう、家の上に何頭もの象が乗っかっているようなものかもしれない。
実際に、古い木造住宅なんかだと、その重さに耐えきれずに家が倒壊してしまうリスクがあるんだ。 それに、玄関が開かなくなったり、もしもの時に逃げ出せなくなったりすることだってある。だから、雪国の人たちは、家を守るために、そして自分たちの暮らしを守るために、重いスコップを持って屋根に上がるんだよ。
はしごの上の孤独と現実
でも、その作業は本当に過酷だ。 秋田県でのデータを見てみると、過去10年間の除排雪中の事故で、なんと1,000人以上の人が死傷しているという事実がある。そのうちの約半数は、屋根やはしごからの転落なんだそうだ。
想像してみてほしい。滑りやすい屋根の上、寒さで手足がかじかむ中で、重い雪を運び続ける作業を。 本来なら、ヘルメットをかぶって、命綱をつけて、二人以上で声を掛け合いながらやるのが理想だとされている。 でも現実は、そう簡単じゃないみたいだ。
「ちょっとだけだから大丈夫」 「道具を準備するのが面倒だ」 そんなふうに思ってしまう気持ち、なんとなく分からないでもないよね。人間っていうのは、どうしても「自分だけは大丈夫」だと思ってしまう生き物だから。 それに、高齢化が進む地域では、頼れる家族が近くにいなくて、やむを得ず一人で屋根に登るおじいちゃんやおばあちゃんも多いんだ。
事故に遭われた方のニュースを見ると、胸が締め付けられるような気持ちになる。 彼らは無茶をしたかったわけじゃない。ただ、自分の家を、生活を守ろうとしていただけなんだから。
「雪を下ろさない」という選択肢はあるか
ここで少し、視点を変えてみようか。 「頑張って雪を下ろす」のではなく、「雪を下ろさなくてもいい家」を作ることはできないんだろうか。
実は、北海道なんかでは、屋根の雪下ろしをしないのが一般的になりつつある地域もあるんだ。 屋根を平らにして雪を乗せたままにしたり、あるいは自然に雪が落ちるような滑りやすい屋根にしたり、そもそも雪の重みに耐えられる頑丈な構造にしていたりする。 「雪下ろしは不要」と言い切る専門家もいるくらいだ。
じゃあ、すべての家をそうすればいいじゃないか、と君は言うかもしれない。 確かにその通りだ。でも、そこには「歴史」と「コスト」という壁がある。 昔ながらの伝統的な日本家屋は、雪下ろしを前提に作られていることが多いし、リフォームするには莫大なお金がかかる。 特に、住んでいる人が高齢だったり、あるいはもう誰も住んでいない「空き家」だったりすると、なおさら難しい問題になる。
空き家の雪を放置しておくと、倒壊して隣の家に迷惑をかけたり、屋根から落ちた雪が通行人を傷つけたりするリスクがあるから、誰かがやらなきゃいけない。 誰も住んでいない家の雪下ろしのために、誰かがリスクを背負う。なんだか少し、切ない矛盾を感じないかい?
テクノロジーと、人の温もりと
暗い話ばかりしてしまったね。でも、未来はそんなに捨てたもんじゃないと僕は思っている。この雪の問題を解決しようと、知恵を絞っている人たちがたくさんいるからだ。
例えば、屋根にヒーターを入れて雪を溶かす「融雪システム」なんてものもある。電気代や燃料代はかかるけれど、屋根に登るリスクはゼロになる。 それから、スマホのアプリを使って、雪かき中の人の動きを感知して、もし動かなくなったら自動的に家族にSOSメールを送るようなシステムも開発されているそうだ。これなら、一人で作業している時でも、万が一の時に早く見つけてもらえるかもしれない。
除雪機だって進化している。もちろん、機械に巻き込まれる事故には気をつけなきゃいけないけれど、安全装置がついた新しい機種も増えている。
君が大人になる頃には、もっとすごい技術ができているかもしれないね。 ドローンが自動で屋根の雪を払ってくれるとか、雪をエネルギーに変えるすごい装置ができるとか。 「昔の人は、わざわざ屋根に登って雪を下ろしていたんだってさ」なんて、笑い話になる日が来るかもしれない。
君のアイデアが、誰かを救うかもしれない
雪国の冬は厳しい。でも、その厳しさの中にこそ、新しい発想の種が埋まっているような気がするんだ。今、僕たちにできることはなんだろう。 もし君のおじいちゃんやおばあちゃんが雪国に住んでいるなら、「雪下ろし、気をつけてね」と電話を一本かけるだけでもいい。「一人でやらないでね」って伝えるだけでも、大きなストッパーになるかもしれない。
そして、もし君が将来、エンジニアになったり、建築家になったり、あるいは政治家になったりした時、この「白い重り」のことを思い出してほしい。 どうすれば、雪国の人たちが、命をかけずに冬を越せるようになるか。 どうすれば、美しい雪を、ただ美しいものとして愛でることができるようになるか。
冬の夜は長い。答えはまだ、雪の下に埋もれている。 それを掘り起こすのは、もしかしたら君の役目かもしれないよ。

