秋田に吹く風と、君の明日について

 僕がこの秋田という土地にやってきたのは、平成15年のこと。 あれから随分と時間が経ったけれど、当時の海岸線には、今のような景色はなかった。 日本海から吹きつける猛烈な風を受けて、白い巨塔たちがブンブンと回る光景。 陸の上に280基以上も並ぶその姿は、いつしかこの街の「原風景」になった。

 君も、教室の窓から、あるいは通学の電車から、あの風車を見たことがあるだろうか。 今日は、あの白い羽根が回るその足元で、一体何が起きているのか。 少しだけ、大人の事情と、君の未来の話をしよう。

ニュースが運んできた「激震」

 最近、ニュースで見たかもしれない。 「三菱商事が、秋田の洋上風力から撤退」というニュースだ。 海の上に風車を建てるという国家プロジェクト。その主役だった大企業が、「コストが高すぎて割に合わない」と手を引いたんだ。

 正直、地元は大騒ぎだった。 「やっぱりダメなんじゃないか」 数十億円というお金をかけて準備していた地元の会社もあったから、そのショックは計り知れない。 でもね、これを単なる「失敗」だと切り捨てるのは、少し早計だ。 実はこの撤退劇の裏で、秋田はただでは転ばない「したたかさ」を見せ始めているからだ。

「反対」と「賛成」の間にある、対話という格闘技

 ところで、洋上風力のキーワードでネットを開いた時、「景観が壊れる」「健康被害が心配だ」「地元には金が落ちない」といった批判の声がたくさんある。 確かに、手放しで「万々歳」とはいかないのが現実だ。

 でも、画面の向こう側に見える批判だけで、全てを知った気になるのは浅はかだ。 ここ秋田では、ネットの喧騒とは違う場所で、もっと泥臭くて、熱い「対話の格闘技」が行われてきたんだ。

 海と共に生きる漁師さんたちは、生活がかかっている。 「魚のゆりかごである浅い海には建てないでくれ」 「船の通り道だけは確保してほしい」 そんな切実な声を、国や事業者は無視したわけじゃない。何度も何度も「協議会」というテーブルを囲んで、時には怒鳴り声が飛ぶような議論を経て、ギリギリの妥協点を探ってきた歴史がある。

 自治体だって、ただ指をくわえて見ていたわけじゃない。 今回の撤退を受けて、次に手を挙げる事業者に対しては、これまで以上に「厳しい注文」をつけている。「地元の港(能代港など)を絶対に使ってください」 「地域への還元金は、売上がどうあれ、出力に応じた『固定額』で払ってください」 「工事の前からその後まで、魚への影響を徹底的に調査してください」

 批判があるからこそ、それをルールに変えて、より地元が得をする仕組みに書き換えている。 ただの巨大な発電所建設じゃない。これは、地域と産業がどう共存するかという、巨大な実験なんだ。

君の目の前に広がる「ブルーオーシャン」

 計画は少し遅れるかもしれない。でも、このプロジェクトが消えてなくなるわけじゃない。 むしろ、一度リセットされたことで、ここ秋田には新しいチャンスの芽が生まれつつある。

 例えば、男鹿海洋高校の中にできた「風と海の学校 あきた」を知っているかい? ここでは、海の上で風車を直したり、特殊な作業船を操縦したりする「風のプロフェッショナル」を育てる訓練が行われている。 年間1000人もの卒業生を出す予定だというから、ただ事じゃない。

 君がもし望めば、地元にいながらにして、世界で通用するレアなスキルを手に入れることができる。 風車は一度建てたら20年、30年と回り続ける。それを守る仕事は、一時的なブームでは終わらない。

 それに、仕事はエンジニアだけじゃない。 「エネルギーの街」として観光客をどう呼ぶか。学生たちが集まって、電気自転車で風車を巡るツアーや、新しいガイドブックを作るアイデアを出し合っているワークショップもあるそうだ。 風車をただの機械と見るか、人を呼ぶ「観光資源」と見るか。視点を変えれば、そこには無限のアイデアが転がっている。

風を読む力

 僕が秋田に来た頃にはなかった景色が、今は当たり前になったように。 これからの10年で、秋田はまた大きく変わる。 今回の撤退劇は、見方を変えれば「地元が主導権を握り直すチャンス」だったのかもしれない。

 風は、目には見えない。でも、帆を張れば船を進める力になるし、風車を回せば街を照らす光になる。秋田に吹くこの強い風を、ただの「厳しい自然」と嘆くか、それとも「未来を運ぶエネルギー」と捉えるか。

 どう感じるかは、君の自由だ。 ただ、スマホの画面から目を上げて、少しだけ海の方を眺めてみてほしい。 そこには、大人が必死に議論して、悩みながら作ろうとしている新しい世界がある。そしてその世界の主役になるのは、間違いなく、君たちなんだ。

まとめ:秋田の洋上風力事情

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