ポケットの中の銀河と、消えない疲れの正体

 最近、街ですれ違う君たちの顔を見ていると、なんだかとても疲れているように見えることがある。まるで目に見えない重たいリュックサックを、ずっと背負い続けているみたいに。

 朝起きて、学校へ行き、勉強をして、部活で汗を流す。放課後には塾に行く子もいれば、アルバイトに精を出す子もいるだろう。そして家に帰って、ようやく一息つけるかと思えば、そこからまた何かが始まる。

 一体、みんなは何時まで起きているんだろう。 若い頃は体力が無限にあるように錯覚するものだ。僕もそうだった。夜遅くまでゲームに夢中になって、翌朝ひどく後悔するなんてことは日常茶飯事だったから、君たちのことを偉そうに言える立場じゃない。

 ただ、僕の時代と今とでは、決定的に違うことがひとつだけある。それは、君たちのポケットの中に、世界中の情報とつながる小さな銀河――スマートフォンが入っているということだ。

眠りの借金と、逆転した元気

 君くらいの年齢だと、どれくらい眠るのが正解なんだろう。ある研究によると、20代前半の若者が能力をフルに発揮するために最適な睡眠時間は、実は8時間半くらいだというデータがある。驚くかもしれないけれど、それくらい脳と体は修復の時間を求めているんだ。

 でも現実はどうだろう。日本の統計を見てみると、興味深い、というか少し心配になる事実が浮かび上がってくる。なんと、60代や70代の人たちの方が、20代や30代の若者よりも「自分は元気だ」と感じている人が多いというんだ。

 若者の方がエネルギッシュだなんていうのは、もしかしたら過去の神話になりつつあるのかもしれない。 君が朝、布団から出るのが辛いと感じたり、昼間の授業中にどうしようもない眠気に襲われたりするのは、単なる気合い不足なんかじゃない。君の体の中で、睡眠という名の借金が膨らんでいるサインかもしれないんだ。

脳が「オフ」になれない時代

 僕が若い頃にスマートフォンがなくて本当によかったと思うことがある。もしあったら、間違いなく僕は今よりもっとひどい生活を送っていただろう。スマホは便利だ。でも、その便利さが君の脳を少しずつ疲れさせている可能性については、少し考えてみてもいいかもしれない。

 例えば、寝る前のベッドの中。本来なら、そこは一日の終わりを告げる静寂の場所であるはずだ。でも、スマホの画面から出るブルーライトは、脳に「まだ昼間だよ」という嘘の信号を送ってしまう。それに、SNSや動画サイトは、君の注意を惹きつけるためにあらゆる工夫を凝らしている。次から次へと流れてくる情報に触れている間、脳はずっと情報の処理に追われていて、休まる暇がない。これを「脳疲労」なんて呼ぶ専門家もいるらしい。

 誰かと常につながっている感覚は安心感をもたらすけれど、同時に「返信しなきゃ」という見えないプレッシャーも生む。そうやって常に何かに反応し続ける状態は、まるでスイッチを切り忘れた機械のように、じわじわとバッテリーを消耗させていくんだ。

魔法の瓶と火災報知器

 そういえば、カラフルな缶に入ったエナジードリンクを飲んでいる君たちをよく見かける。テスト前や、どうしても頑張りたい夜には魅力的な魔法の薬に見えるかもしれないね。

 でも、あれがどうやって疲れを吹き飛ばしているか知っているかい? 実は、あれは疲れそのものを消しているわけじゃないんだ。体の中で鳴り響いている「疲れたよ」という警報を、一時的に聞こえなくしているに過ぎないという話がある。 火災報知器が鳴っているのに、うるさいからといってスイッチを切っても、火が消えるわけじゃない。それと同じで、無理やり元気になった気がしても、体のダメージはそのまま残っている。 

 もちろん、ここぞという時に頼るのも一つの選択だし、否定はしない。ただ、それが借金の先送りに過ぎないことは、頭の片隅に置いておいてもいいかもしれない。

何もしないという贅沢

 じゃあ、どうすればいいのかって? いきなりスマホを捨てろなんて極端なことは言わないよ。それは今の時代、靴を履かずに外を歩けと言うようなものだからね。

 でも、ほんの少しだけ、「何もしない時間」を作ってみるのはどうだろう。 例えば、寝る前の1時間だけはスマホを別の部屋に置いてみる。あるいは、目的もなくただ近所を散歩してみる。

 最近の研究では、たった15分睡眠時間を長くするだけでも、脳の働きが良くなるという報告もある。週末にまとめて寝だめをするよりも、毎日の生活の中で少しずつ休息を取り入れる方が、体にとっては優しい借金返済方法なんだ。 情報も刺激も遮断して、ただぼんやりとする時間。それは無駄な時間のように思えるかもしれないけれど、実は脳にとっては最高のメンテナンス時間になる。

 君の未来は、君が思っているよりもずっと長い。だからこそ、今のうちに「上手な休み方」を身につけておくのは、英単語を一つ覚えるよりも大切なことかもしれないよ。

 今夜は少しだけ早く部屋の明かりを消して、静かな闇の中で、自分自身の呼吸の音に耳を傾けてみてはどうだろう。 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です