時代の変わり目に立つ、コンテンツと僕らの時間

 

 多くの人たち同じように僕も、最近は地上波のテレビをリアルタイムで見ることはほとんどなくなった。朝、出勤前にスイッチを入れて天気予報を見るくらいはするけれども、それだって手元のスマートフォンで事足りる時代だ。

 昔、僕が高校生だった頃は、テレビが生活の中心だった。
 新聞の番組表をチェックして、何曜日の何時にあの番組があるから、その時間までに家に帰ろうと、自分の行動をテレビに合わせていたものだ。インターネットなんてなかった田舎暮らしの僕にとって、テレビは世界と繋がる貴重な窓だったんだ 。

 でも、今は違う。テレビはもはや、映像メディアの「最強王者」ではなくなってしまった。君の周りでも、テレビを持っていない一人暮らしの友達がいるかもしれないね。
 今回は、そんなメディアの変わり目の話、そしてその変化が君の住む秋田、つまり地域の未来にどう繋がっていくのか、ちょっと一緒に考えてみないか。

スマホの中にある「時間優先」の王国

 まず、君の時間の使い方を見てみよう。僕らの世代とは比べ物にならないくらい、君たちは忙しいらしい。全国の大学生の約7割が、アルバイトや学業を除いた「自由に使える時間」が週に20時間未満だというデータもある。

 そんな限られた時間の中で、僕らがかつてテレビに割いていた時間を、君たちはスマートフォンに注ぎ込んでいる。平日だと、10代の君たちはリアルタイムのテレビ視聴が平均40分にも満たないが、ネットの利用時間はその6倍以上の257.8分(約4時間15分)にもなるという。

 若者がテレビを見ない理由として、「テレビは途中から始まるから」という有名な逸話があるそうだ。

 僕らがテレビに合わせていたように、決まった時間に番組が始まる「リアルタイム放送」の仕組みは、自分の好きな時に好きなものを見たいという君たちの「タイパ」(タイムパフォーマンス)重視の行動様式に合わないのかもしれない。

 ただし、注意してほしいのは、君たちが「テレビコンテンツ」そのものを嫌っているわけではないということだ。

 君も僕も、TVerやYouTubeでテレビ局が作った番組を見ているだろう。実際、YouTubeなどの動画共有サービスで視聴されている時間の半分以上は、テレビ局が作ったコンテンツで占められているんだ。

 つまり、主役が変わったわけじゃない。テレビという「箱」から、スマホやタブレット、そして「TVer」のような配信プラットフォームという「自由な空間」に場所を移しただけなんだね。 この変化は、僕らの世代が経験したテレビの黄金時代とは全く違う、「コンテンツが場所の制約から解放された時代」の始まりを意味しているのかもしれない。

コンテンツに宿る「独自性」と「親近感」という魔法

 君が忙しい合間を縫って何を見るか選ぶとき、何を基準にしているだろうか?

 大学生への調査では、彼らが好む番組には「企画の面白さや独自性」や「現場の楽しそうな雰囲気や親近感」といった要素が多く挙げられている。バラエティ番組が人気だが、中には「テレビのバラエティよりも、YouTubeやNetflixのコンテンツの方が尖っていて見応えがある」という手厳しい意見もあるそうだ。

 これは、テレビ番組が、もはや裏番組だけでなく、YouTubeのクリエイターが作る動画や、海外の配信サービスが巨額の予算をかけて作ったオリジナルドラマといった、あらゆるコンテンツと比較されているということだ。コンプライアンスなどの制約が多い地上波テレビは、他のメディアと比べて「独自性」や「尖った面白さ」を提供し続けることが難しくなっているという見方もできる。

 僕が子どもの頃は、テレビから流れてくるものを一方的に受け取るしかなかったけれど 、君たちは違う。君たちは、自分の「好き」を追求してコンテンツを選ぶ「目的視聴」派が多い。そして、面白い番組を見つけるきっかけの半分は「SNS」からだというデータもある。

 SNSで話題になり、切り抜き動画などで「面白そう」だと確認してから、TVerで全編を見る。コンテンツに触れる最初の接点は、もうテレビ画面ではなく、スマホの中にあるということだ。

秋田のテレビ局が抱える、見えない戦い

 さて、ここで秋田の話に戻ろう。僕らが住む秋田にも、地元の情報やニュース、地域に根ざした番組を届けてくれる放送局がある。

 全国のテレビ業界全体では、インターネット広告費が2019年に地上波テレビ広告費を上回り、その差は年々拡大している。広告収入が減ると、当然、番組を作るためのお金(制作費)も減っていく。特にローカル局は、キー局(東京)のような大きな会社と比べて、経営が厳しくなりやすいんだ。
 地方のテレビ局は、「広告収入の減少」や、新しい放送設備への投資が難しいという「設備更新の課題」に直面している。もし君が将来、秋田でメディアやコンテンツに関わる仕事に就きたいと考えたとき、この経済的な厳しさは避けて通れない現実だ。

 さらに、配信サービスを始めようとしても、地方の局には「権利処理(著作権などの手続き)に対応できる人が足りない」とか、「ノウハウがない」といった課題も多くある。コンテンツをネットで自由に流通させるには、クリアすべき壁がたくさんあるんだ。

 でも、地域メディアには、ネットの波に負けない、確かな強みもある。それは「地域情報番組」を通じて、地元の人たちに「親しみ」や「信頼性」を感じてもらっていることだ。特に、地震や災害などの非常時には、地元の放送局への期待は今も昔も非常に大きい。僕がNHK受信料を払っているのも、いざという時の「安心感」を買っている側面があるからね 。

秋田の将来は「コンテンツ」で変えられるか

 テレビ局のビジネスモデルは今、大きな転換期を迎えている。
 東京のキー局は、「番組=一過性」から「IP(知的財産)=ブランド資産」という考え方にシフトしている。つまり、番組をただ流すだけでなく、配信、映画、イベント、グッズなど、様々なチャネルを通じて収益を上げ、そのコンテンツの世界観を「君の人生に寄り添う存在」にする戦略だ。

 秋田の君たちが将来を考えるとき、このメディア環境の変化は大きなヒントになると思う。

 テレビ局の経営が厳しいからといって、秋田から面白いコンテンツが生まれないわけではない。むしろ、物理的な流通の壁が壊れ、ネットという「オールジャパンのプラットフォーム(TVerなど)」や、さらに世界の視聴者にも届けられるチャンスが生まれているんだ。政府も、日本のコンテンツを世界に発信するために、製作力強化や人材育成、流通プラットフォームの整備を支援しようとしている。

 大切なのは、僕らが慣れ親しんだ「テレビ」という箱から少し目を離して、「コンテンツそのものの価値」をどう最大化するかという視点を持つことだ。君の地元のニュースや文化、歴史、風景、そして何よりも君たちが日常で感じている「親近感」や「独自性」こそが、地方発のコンテンツが持つ最大の強みだ。これをデジタル技術(VFXやAIの活用など)やSNSの力を借りて磨き上げ、国内だけでなく、世界に発信していくことができれば、秋田の未来も変わってくるんじゃないだろうか。

 もちろん、反対意見もあるだろう。地方で高品質なコンテンツを作るには、お金も人も必要だという現実的な壁もある。でも、古いやり方に固執するのではなく、君たち若い世代の「時間優先」の行動様式や「SNS起点の消費」を逆手に取り、新しい繋がり方を見つけること。

 君が地元のメディアや産業に加わるにせよ、一人のコンテンツ消費者でいるにせよ、自分の周りの世界がどう動いているかをちょっと立ち止まって眺めてみてほしい。その視点こそが、秋田の未来を考える第一歩になるはずだからね。

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