秋田の未来は、君の「一歩」で変わる

MDウォークマンと1時間の思索
高校生だった頃、僕の通学は自転車が中心だった。八戸という北国に住んでいたけれど、幸いにも雪が少ない地域だったから、冬でも毎日、学校まで5、6キロの道を1時間くらいかけて走っていたんだ 。
もちろん、当時の僕にとって、その通学時間はただ移動する時間じゃなかった。MDウォークマンで、お気に入りの音楽を聴く、自分だけの世界を持つ時間だった。音楽を聴きながら自転車に乗るのは、今は法律で禁止されているから絶対に真似しちゃいけないよ。
最近は、通学時の安全管理にも気を配らないといけない課題があるよね。熊が出没したり、道路での犯罪や事故の懸念もある。特に小学生以下の子供の交通事故は、低学年ほど多く、その被害は登下校時間帯に集中しているというデータもある。
秋田は、特に車社会だから、親御さんの送迎で通学することが多いだろう。でもね、僕は個人的に、できるだけ若い頃から「歩く習慣」を身につけてほしいと思っているんだ 。
3000歩の隠れた「健康貯金」
毎日、運動のためにまとまった時間を確保するのは、なかなか難しいことだ。だからこそ、通学中の徒歩を、毎日の運動として習慣化してしまおう、という提案をしたいんだ。
秋田の隣、岩手県内の小学生を対象にした調査によると、徒歩で通学する子どもたちの1日の平均歩数は約1万1130歩で、バスや車で通学する子どもの平均歩数(約8160歩)と比べて、約3000歩も多いというデータがある。この「3000歩の差」は、通学という日常の生活活動から生まれる、見過ごせない健康貯金だと思わないか。実際、徒歩で通学している小学生の方が、通学が運動になり、体力がつくと感じているという結果も出ているんだ。歩行は3メッツの強度に相当する身体活動で、健康・体力維持に欠かせないんだ。
もちろん、反対意見もある。バスや車での通学には、安全確保(街灯が少なく道が暗い地域では特に)の有効な手段であるというメリットがあるし、通学で「疲れる」と感じる割合は低いという調査結果もある。特に遠距離通学では、スクールバスは児童生徒の安全確保のための有効な手段の一つだ。
さらに君たち秋田の若者の体力状況について、秋田市のデータでは、小学生男子と中学生男子の週間の総運動時間は全国平均を上回っているのに、中学生女子の運動時間だけが全国平均を約16.4分下回っているという課題があるんだ。運動が苦手な子や、運動機会が不足している子には、通学中の徒歩が、その不足を埋める大事な一歩になるかもしれないね。
消えゆくバス路線を、君の乗車で支える
次に、君自身の未来と深く関わる、秋田の「公共交通」の話をしよう。
秋田県では今、人口減少や高齢化が進み、地域公共交通の利用者がどんどん減る傾向にある。そうなると、バスや鉄道を維持するために、市町村の財政的な負担が増すばかりなんだ。秋田では自家用車の利用がますます進んでいて、過度な自家用車利用から脱却し、公共交通ネットワークの維持・確保、さらには活性化を図ることが、秋田の活力を育むために必要だと考えられている。公共交通を維持するため、県はデジタル技術を使って乗り換えを分かりやすくしたり、交通事業者や行政のトップが積極的に利用をアピールしたり、高校生を対象としたキャラバンを実施したり、様々な努力をしている。
ここで君の出番だ。地域公共交通の目標の一つに、「乗って守る」意識の醸成が掲げられているんだ。君がバスや電車に乗るという行為は、単なる移動手段の選択ではなく、秋田という地域のインフラを「乗車賃」という名の投票で守る、未来への投資活動になる。これは少し大げさに聞こえるかもしれないけれど、事実なんだ。
挨拶は最強の「地域密着型防犯カメラ」
歩くことのメリットは、体力向上だけじゃない。それは、君が暮らす「地域そのもの」の体力を高めることにも繋がるんだ。
近年、人口減少と超高齢化社会の到来によって、通学路の安全を見守ってくれる防犯ボランティア団体や、その担い手の数は減少傾向にある。人の目が少なくなると、君たちが危険に遭遇するリスクも高くなってしまう。歩行は、最も基本的な生活活動であり、僕たちが地域と関わるチャンスでもある。
たとえば、登校中に道端で会う近所のおじいさん、おばあさんに君が「おはようございます」と挨拶をするだけで、その人は君を認識し、君たちの街の「見守りの目」になる。これは、挨拶というとても穏やかで簡単な行動が、地域の一員としての意識(地域コミュニティ力)を高め、犯罪がしづらい環境(犯罪抑止)を作ることに繋がる、ということだ。君が毎日、気持ちよく挨拶をして通学すれば、それは無料で、しかもフレンドリーな「地域密着型防犯カメラ」を設置するようなものだと思わないか。
見守り活動の担い手である地域の方々は、感謝の言葉がないことに不満を感じることもあるという指摘があるけれど、君からの日頃の挨拶やコミュニケーションこそが、活動者のモチベーションアップに繋がり、「この街の子どもたちを守ろう」という気持ちを継続させるエネルギーになるんだ。
移動の「遅さ」が君に教えること
僕の高校時代、自転車で1時間かけて通学していた時間は、音楽を聴き、頭の中でいろいろなことを考え、四季の移ろいを感じる、豊かな時間だった 。桜が舞う橋を自転車で通った思い出や、夕日がきれいな景色を眺めた覚えもある。
車に乗って高速で移動することは、たしかに便利だ。でも、歩いたり、バスに揺られたりする「遅さ」の中にこそ、君の体力や、君の地域の公共インフラ、そして君を取り巻くコミュニティの安全という、秋田の将来を考える上で大切な「素材」が隠れているんだ。
君の毎日の通学の選択は、君自身の健康だけでなく、過疎化や高齢化が進む秋田の街の未来に直結している。だから、肩の力を抜いて、もし歩ける距離なら、少しだけ立ち止まって、自分の足で一歩一歩、その未来を歩いてみてほしい。君のその一歩が、この街を支える力になるんだ。

