時代が語る「話し方」の余白

 

 僕たちが毎日指先で触れているスマートフォンの中には、もう一つの、広大で賑やかな世界が広がっている。君たちの世代――SNSネイティブと呼ばれる君たちにとって、画面越しのやり取りは、呼吸をするのと同じくらい自然なことだろう。
 けれど、僕はふと立ち止まってしまうことがあるんだ。 はたして、文章だけで、いつも正しく自分の真意を伝えることができる人はいるのだろうか。何十年も文章を書いてきている社会人でも、メールだけのやりとりで行き違いがあることは少なくない。ましてや、若者であれば尚更のことだ。
 僕自身、仕事で本当に大量のメールやチャットと接する毎日を送っているけれども、プライベートになると、LINEを使うのは定期的に通っているお店の予約手段のためくらいで、人とのコミュニケーションにはほとんど使っていないんだ。連絡手段はiPhoneの標準チャットアプリがメインで、その内容も、「9時に到着する」「15日ならOK」など、ほぼ業務連絡に近い感じだ。どうせなら、実際に会って、お話しをする方がいいと、今でも思っているよ。文章でのやり取りが少し苦手、というのもあるんだけれどね。

 そんな僕から見て、君たちが何を考え、何を感じているのか、少し立ち止まって考えてみたいんだ。これは秋田の未来の話でもある。

テキストの時代、僕たちはなぜ「楽」になったのか?

 僕たちの世代がまだ慣れない文字だけのやり取りについて、君たちはどう感じているんだろうか?
 ある調査によれば、「対面で話すよりもSNSでのやり取りのほうが気が楽だ」と感じている人は、全体で半数以上いるらしい。特に10代の男性だと7割近くがそう答えているというから、これはもう世代を超えた大きな流れなんだろう。対面で言いづらいことも、SNSなら気軽に言えるという側面もあるだろう。
 「楽だ」「楽しい」というのは、とても大切な感覚だ。誰かとコミュニケーションをとる時、必要以上に緊張したり、気を遣いすぎたりしなくて済むのは、心の負担を減らしてくれる。これは君たちが享受している素晴らしいメリットだ。

 ただ、ここで少しだけ意地悪な質問をさせてほしい。 僕たちが現実に生きている以上、対面でのやり取りにも慣れていく必要もある。テキストでのやり取りが楽だと感じる裏側で、もしかしたら君たちは、相手に誤解を与えないように予防線を張ったり、返信するタイミングを試行錯誤したり、という別の種類の「気遣い」を、猛烈に行っているんじゃないだろうか。楽になった分だけ、見えないところで頑張っている、そんな風にも見えるんだ。

文字が伝えてくれない「声のトーン」

 君たちがチャットやLINEでやり取りしている様子を観察すると、会話のテンポがものすごく速い時があるよね。極端に言葉を短くしたり、「分かち書き」といって一つの文章をいくつかに区切って送ったりしている。
 でも、そうやって短く、テンポ良くやり取りすると、情報はどうしても曖昧になってしまう。僕たちが面と向かって話しているときには、君の表情や声のトーン(パラ言語)、身ぶり手ぶりといった、言葉以外の情報(非言語コミュニケーション)が、伝えたいことのニュアンスや感情を補ってくれている。もし僕が君に「何で来るの?」と尋ねたとして、その時の僕の顔が笑顔で楽しそうだったら、「来るな」という意味には絶対ならないはずだ。
 文字だけのやり取りが難しいのは、この声や表情といった「真意を伝えるための情報」が、ごっそり抜け落ちてしまうからだ。その結果、「○○君ってカッコよくない?」という共感のつもりで送った文が、「カッコよくない」という否定の意味で受け取られてしまうような悲しい誤解も生まれる。
 だからこそ、君たちは絵文字やスタンプを使うのだろう。スタンプは、文字では伝えきれない複雑な感情を表現したり、「怒っているけど、約束を楽しみにしていたんだよ」という好意を同時に伝えたりする、とても便利なツールだ。
  でも、このスタンプも万能ではない。スタンプや顔文字は、私的な通信場面では大いに有効だけれど、公的な場面では「幼稚だ」「失礼だ」と捉えられてしまうリスクも抱えている。

 結局、僕たちは言葉であれスタンプであれ、どこかで摩擦やすれ違いを経験してしまう運命にある。SNS上でのいじめや嫌がらせといったトラブルを経験した人も多いらしい。

どこまでも深く潜る「好き」の力

 君たちの世代、Z世代は、広く浅いつながりではなく、身近な人との深いつながり、つまり「質の高い絆」を求める方向に回帰していると言われている。SNSのリスクを回避するため、親しい人だけに見せる「クローズドな空間」を利用する傾向もある。この「深さ」を求める姿勢は、コミュニケーション以外の面にも表れている。
 日本の高校生は、SNSを利用する主な目的として、「趣味や興味のある話題に関する情報の収集」を非常に重視している。その割合は82.4%にもなり、これは米国や中国、韓国と比べても突出して高い数値なんだ。ゲーム、音楽、ファッション、アニメ、K-POP。君たちの興味の対象は多様で、そのどれもに、とことん深く潜っていく情熱がある。そして、TikTokのようなプラットフォームでは、そういったマニアックに「突き詰めた」コンテンツが多くの人に見つけてもらえる仕組みがある。

 秋田という場所で、君たちが熱中する「何か」を見つけ、デジタルを使ってその情報を深く掘り下げ、発信していく。これは、君たちの未来、そして秋田の未来にとって、とても大きな可能性を持っているはずだ。
 なぜなら、デジタルで培った「深掘りする力」や「好きを突き詰める力」は、最終的には現実の行動と結びつくからだ。それは、秋田の伝統工芸かもしれないし、誰も注目していなかった地元の食材かもしれない。SNSを通じて世界中から情報を集め、それを地元の文脈と掛け合わせることで、君たちは新しい価値を生み出すクリエイターになれる。
 最初は誰も気づかないかもしれない。でも、その情熱が本物なら、SNSの力を借りて、その面白さは必ず誰かに見つけてもらえるはずだ。楽なテキストでのやり取りに慣れすぎると、対面で気持ちを伝える苦労を忘れがちになるかもしれない。しかし、相手の目を見て、声のトーンを合わせて、心を込めて話すことの「重さ」と、SNSで「好きなこと」を深く追求し、発信していくことの「軽快さ」の両方を使いこなすことが、君たちにはできるはずだ。
 君たちの目の前には、デジタルという無限の図書館と、秋田というかけがえのない現実世界が広がっている。その両方を行き来しながら、君たちだけの未来を見つけていってほしい。

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